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大阪高等裁判所 昭和49年(ネ)1076号 判決 1977年3月30日

控訴人 多小谷金三郎

右訴訟代理人弁護士 的場悠紀

同 木村保男

同 川村俊雄

同 大槻守

同 松森彬

同 林信一

同 坂和章平

被控訴人 株式会社進和塗装

右代表者代表取締役 高光敏夫

被控訴人 大阪府中小企業信用保証協会

右代表者理事 松阪町一

右両名訴訟代理人弁護士 富田貞男

同 富田貞彦

同 大家素幸

同 中森宏

主文

一、原判決中控訴人の被控訴人株式会社進和塗装(以下被控訴人会社と略称する)に対する請求に関する部分を次のとおり変更する。

1  控訴人の被控訴人会社に対する請求のうち、原判決別紙物件目録一記載の土地(以下本件土地と略称する)明渡請求部分について訴を却下し、原判決別紙物件目録二記載の建物(以下本件建物と略称する)収去請求部分を棄却する。

2  被控訴人会社は控訴人に対し、昭和四二年三月一日以降本件土地明渡済みに至るまで、一ヵ月金六、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

二、控訴人の被控訴人大阪府中小企業信用保証協会(以下被控訴人保証協会と略称する)に対する本件控訴を棄却する。

三、被控訴人保証協会に対する控訴費用は控訴人の負担とし、被控訴人会社に対する訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人、その一を被控訴人会社の各負担とする。

四、本判決は第一項2に限り仮に執行することができる。

事実

第一、求める裁判

(控訴人)

「一、原判決を取消す。

二、被控訴人会社は控訴人に対し、本件建物を収去して本件土地を明渡し、且つ昭和四二年三月一日以降右明渡済みに至るまで、一ヵ月金六、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

三、被控訴人保証協会の請求を棄却する。

四、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」

旨の判決並びに右第二項につき仮執行宣言の申立。

(被控訴人ら)

「一、本件控訴を棄却する。

二、控訴費用は控訴人の負担とする。」

旨の判決。

第二、主張

次に付加するもののほか、原判決事実摘示欄一項(三)ないし(五)、二項(三)(四)記載を引用する。

(控訴人)

第一、はじめに

一、原判決は、まず控訴人の請求につき「控訴人の解除権の行使は別件の口頭弁論終結前に既に生じていた本件根抵当権設定登記等の存在を債務不履行該当行為であるとして、その後にこれを原因として本件催告および解除に及んだものであるから別件判決が確定した本件建物の所有権の帰属に関する判断につき、当該判決の基準時点たるその口頭弁論終結前に生じた解除原因事実を主張してこれを争うこととなり、右確定判決の既判力に牴触するもので許されない」と判示して、これを棄却した。

そして、更に被控訴人保証協会の控訴人に対する請求につき、「控訴人と被控訴人との間の既判力の拘束力は、後訴において被控訴人会社の控訴人に対する本件売買代金債権の存否が問題となった場合にも、控訴人はその先決問題として前示解除原因を主張して解除権を行使し、右代金債権の消滅を主張することは許されず、又保証協会の控訴人に対する本件売買代金の請求は、前示のとおり転付されたものであるから、被控訴人保証協会は、被控訴人会社と控訴人との間の既判力の拘束力をも承継しており控訴人は被控訴人保証協会に対しても右と同じ主張をすることは許されない」と判示して、遅延損害金の一部を棄却したのみで他を認容した。

二、原判決が控訴人を敗訴させた根本的根拠たる「別件判決の既判力に牴触する」との判断をした理由は要約すれば次のとおりである。

(1)  別件判決は本件建物の所有権が進和塗装に属することを否定し、逆に控訴人に属すると認定したこと。

(2)  別件判決は建物収去の請求中には建物明渡の請求をも包含するものと解して本件建物明渡を命じているのであるから、本件建物収去の請求を棄却すべき旨の文言は形式的に主文に現われなかっただけで、これが棄却されたことに変りがないこと。

(3)  本件根抵当権設定登記等はいずれも債権担保のためであるから、民法五七七条の適用があり、控訴人はこれを理由に代金全額の支払を拒むことができるから代金支払義務と右登記等の抹消登記義務とは同時履行の関係になく、この点で控訴人の本件建物売買代金額未設定の主張は採用できないこと。

(4)  そうすると控訴人の解除権の行使は別件判決が確定した本件建物の所有権の帰属に関する判断につき、当該判決の基準時点たる、その口頭弁論終結前に生じた解除原因事実を主張してこれを争うこととなり、右確定判決の既判力に牴触する。

三、原判決の以上の論理は一見正しそうにも見えるが、その実、根本的に誤っているものである。

控訴人は原判決が控訴人を敗訴させるに至ったのは、法解釈の誤りによるものであって原判決は不当であると信ずるものであり、以下その理由を次の三点から論述する。

(1)  土地所有権に基づく建物収去土地明渡請求の訴訟物は「土地の明渡し請求権」であり、従って建物についての所有権の帰属更に解除原因の存否については既判力は及ばないこと。

(2)  事実審の口頭弁論終結前に「解除権を行使することができた」といいうるためには、相手方に履行を催告し相手方が履行遅滞に陥っていることが必要であること当然であるが、本件においては、口頭弁論終結前に履行を催告しておらず従って解除権が発生し、解除権を行使できたということはできないこと。

(3)  形成権の口頭弁論終結後の行使についての判例、学説の検討の上に立って、解除権の場合は取消権と異なり、口頭弁論終結後もその行使が可能であると解しなければならないものであること。

第二、訴訟物との関係における検討

一、土地所有権に基づく建物収去土地明渡の訴訟物は何か。

(1)  右についての学説は周知のとおり次の三説に分かれている。

(民事実務ノート三巻七八頁)

① 第一説

「建物収去」は土地明渡と別個の実体法上の請求権の発現ではなく、実体法上の土地明渡請求権の内容であって、これを主文で明らかにするのは「土地明渡」についてのいわば執行方法を明示しているだけであって訴訟物はあくまで「土地明渡」所有物返還請求権であるとする説。

② 第二説

建物収去、土地明渡請求は所有物(土地)返還請求プラス(土地の)妨害排除請求と考え、右は別々の訴訟物であるとし、従って「建物収去、土地明渡」請求は右二つの請求の客観的併合であるとする説。

③ 第三説

物権的請求権の三種(返還請求、妨害排除請求、妨害予防請求)というのは通常の型を示しただけであっていずれかの型にはめこむことはもともと不要であって侵害に応じて請求権の内容が変化すると考えればよく、従って建物の所有と土地占有という侵害には「建物収去土地明渡」という一つの請求権が発生するとする説。

(2)  右同書は、この問題につき、特にこの点について書かれたものを見ないので臆測であるがと断わりつつ、「第一説が普通の考え方であろう」でされておられる(同書七八頁、九二頁)。そして又、「第一説のように普通に考えれば、訴訟物は土地明渡請求権だけであるが、第二、三説のように考えたとき建物は訴訟物とどういう関係になるのか」と問題提起をされ、それについては「建物収去は土地所有権に基く妨害排除請求権の発露であり、右のような物権的請求権(即ち土地所有権に基く妨害排除請求権)が訴訟物であることは間違いなく、従って土地所有権が基礎であることは勿論であるが、同一土地所有権に基く妨害排除請求権であっても、侵害ごとに、あるいはもっと細分するなら求める排除の対象態様ごとに、識別されるということになろうから、その意味で建物も訴訟物の構成要素の一部をなしているといえることになろう」と述べておられる(同書七九―八〇頁)。

右の議論の実際上の問題は要するに、土地所有権に基く物権的請求権の行使において、動産によって土地を占有されている場合は、単に「土地明渡」の債務名義を得るだけで足りるが、建物によって土地を占有されている場合は「土地明渡」の債務名義だけでは建物に関する執行はできないという執行法上の制約があるために、原告はいかなる債務名義をとればよいのかという問題であると考えられる。

そして、建物収去の場合と、建物退去(明渡、引渡)の場合とを問わず、その根拠となるのは土地所有権に基く物権的請求権であることには異論はなく、ただ原告が「建物収去」という方法で土地明渡を求める場合はその「建物収去」の点にも重点があるため、これをも訴訟物の一構成要素と考えるのが妥当であろうということである。

従って、どの説をとったとしても、本来的な訴訟物は土地所有権に基く物権的請求権であるとしている点を理解しなければならないのである。

二、既判力はどの部分について生ずるか。

(1)  既判力は判決主文に包含する部分に限り生ずることは民事訴訟法一九九条一項に規定されており、これは民事訴訟法の最も基本的な原理の一つである。

従って例えば、建物所有権に基づき建物の明渡を請求しこれが認容された場合は、判決主文に掲げられる給付義務(建物明渡)についてのみ既判力を生じ、判決理由に掲げられる建物所有権の存否については既判力は生ぜず、従って敗訴した相手方が、後訴で右建物の所有権確認の訴を提起することは何ら既判力に牴触しないとするのが判例・学説の確立した見解である。

(2)  さすれば、土地所有権に基づき建物収去、土地明渡を求め、建物明渡・土地明渡の判決主文が出された場合、既判力はどの範囲に生ずるのであろうか?

この点は前述の訴訟物をどう考えるかという議論と表裏一体をなすものであるが、最も普通の考え方たる第一説によれば、当然、土地明渡義務の存在についてのみ既判力が生ずるとの結論となる。

また第二説、第三説においても、本来的な訴訟物は土地所有権に基づく物権的請求権であるから、争いなく既判力が生ずるとされるのは第一説の場合と同じく「土地明渡義務の存在」のみである。

第二、第三説のように考えれば「建物も訴訟物の構成要素の一部なしているといえることになろう」(前同八〇頁)との意味は若干あいまいであるが、少くとも建物所有権にもとづき建物明渡を請求し、これが認容された場合に建物明渡義務の存在につき既判力が生ずるというような典型的な場合と同一ではないということは間違いないと思われる。けだし、そうでなければ右のような「もってまわったような」説明づけをする必要は全くなくなるからである。

土地所有権にもとづき建物収去・土地明渡を求め、建物退去(明渡、引渡)、土地明渡を命じた場合も、建物退去ということの意味は建物所有権にもとづく明渡請求権を認容したものではなく、土地所有権に基づく物権的請求権を満足させる方法として建物収去ではなく建物退去を認容したということなのである(このことは、建物収去・土地明渡を命じた場合に一層明らかである。即ち建物収去を認めるのは建物についての物権的請求権とは無関係であり、あくまで土地所有権にもとづく物権的請求権を根拠とするものなのである。)から、「当事者が訴訟物として設定し、裁判所に判断を求めた事項についてのみ裁判所の判断に不可抗争力を与える」という既判力の制度的本質に鑑みれば、右の場合の既判力も本来的な訴訟物たる土地明渡義務の存在についてのみ生ずると考えなければならないものである。然りとすれば、前記のいずれの立場を採るにせよ、既判力は、土地明渡義務の存在についてのみ生じ、建物明渡義務の存否、建物収去義務の存否、更には当然のことながら建物所有権の存否についてまで既判力は生じないものと考えなければならないのである。

ましてや、判決主文で建物明渡土地明渡を命じ建物の所有権の帰属が判決理由中で示された場合に、その帰属に変動を与える建物売買契約の解除についてまで、後訴においてその主張が既判力により遮断されるなどということはあり得ないといわなければならない。

(3) これを本件に即して考えてみればどうなるであろうか。別件訴訟は控訴人が、本件土地所有権にもとづき本件建物収去・土地明渡を求めたものであって、その訴訟物(少くとも本来的な訴訟物)は土地所有権に基く土地明渡請求権であること明白である。

そして進和塗装に本件土地の占有正権原が認められなかったために本件土地明渡を命じたこと、及び、本件建物収去については昭和四二年二月ごろ本件建物売買契約が成立し、従って又本件建物の所有権が控訴人に帰属していると判決理由中で認定したため、判決主文には建物収去土地明渡とはせず建物引渡土地明渡と掲げたものであることが明白である。

ここで注目すべきは別件判決はその主文において「原告のその余の請求を棄却する」旨の文言を掲げていない点である。

すなわち、別件判決は前記訴訟物の考え方につきどの説に立つとは明言していないけれども、右文言を判決主文に掲げていないことから考えれば少くとも建物収去を独立の訴訟物とは考えなかったことは明白であるばかりか更には、建物収去か建物明渡しかは執行方法を示したものだとの第一説の立場を採用したものと推認することができるのである。

原判決は、この点につき「認容されなかった本件建物収去請求部分を棄却すべき旨の文言は形式的に主文に現われなかっただけでこれが棄却されたことに変りはない」と判示しているが、これは明らかに別件判決の曲解であるといわなければならない。何故ならば請求の趣旨=判決主文は完全に対応すべきものであって、「実質的には棄却だが、判決主文には現わさない」などというあいまいなことは、裁判所は、当事者の申立てた事項以上の判断をしてはならないと共に、当事者の申立てた事項は必ず判断しなければならないという弁論主義の根本原理からみて到底許される筈はないのである。

従って、別件判決が既判力により不可抗争力を与えたのは本件土地明渡請求権の存在ということのみであって本件建物の退去義務の存否、更には本件建物の所有権の存否には既判力は及ばず、従って、本件建物売買契約の解除権の行使が既判力により遮断されることもあり得ないのである。

第三、別件口頭弁論終結前には控訴人は解除権を有しておらず、「解除権を行使することができた」とはいいえない。

一、形成権の行使と既判力理論との関係

「口頭弁論終結前に形成権(取消権・解除権・相殺権等)の行使が可能であったにもかかわらず、行使しなかった場合、その後に形成権を行使したことを理由として請求異議の訴が許されるか」という問題は従来既判力の時間的限界の問題として学説・判例が対立していたことは周知のとおりである。そしてこの問題の解釈上の分岐点は、請求異議の訴における異議原因の発生時期を「形成権を行使したとき」とみる(従来の判例の立場)か、それとも「形成権の成立したとき」とみる(多数の学説の立場)かの点にあることもまた周知のとおりである。

(なおこの問題につき多くの学説が取消権・解除権の場合と相殺権の場合とを区別して論じてきていることの不当な点等は後記、第四において詳論する)

右に明らかな如く、この問題の前提たるケースは「口頭弁論終結前に形成権の行使が可能であったにもかかわらず行使しなかった場合」であって、形成権を行使することが未だできない状態にあった場合までも含めたものではなく、このような場合は弁論終結後形成権の行使が可能となった時点で行使することは何ら既判力に牴触するものではないことは自明の理として承認されているのである。

二、本件において、別件の口頭弁論終結前既に解除権が発生し、その行使が可能であったか。

(1)  履行遅滞による(法定)解除権発生の要件は、

① 債務者の責に帰すべき事由による履行遅滞があること。

② 債権者が相当の期間を定めて履行を催告したこと。

③ 催告期間内に履行されなかったこと。

の三点である。(我妻栄民法講義、債権各論上巻一五二頁)そして又、履行期との関連でいえば次のことが現在の判例、学説において確立されている。(同書一五四―一五五頁)

① 確定期限の定めがある場合は債務者は一般にはその時から履行遅滞となるが同時履行の抗弁権を有する場合には期限がすぎただけでは履行遅滞とならず、債権者は自己の債務を提供して債務者の有する同時履行の抗弁権を封じたうえで、相当の期間を定めて催告し、その間に債務者の履行がなければ解除権が発生すること。

② 確定期限の定めがある場合でも両当事者がその期限を徒過すれば、その債務は期限の定めのないものとなること。

③ 期限の定めのない債務の場合、履行遅滞におちいらせるための催告(民法四一二条三項)と、解除権発生のための催告(民法五四一条)との両方をする必要はなく催告は一度すれば足りること。

(2)  別件判決の認定によれば、昭和三九年二月頃本件建物について停止期限付(三年間)売買契約が成立したというのであるからこれは確定期限の定めある債務であり、その履行期に両当事者共に履行せず期限を徒過したこと明らかであるからその後は期限の定めのない債務となったものである。

従って、履行期を徒過した昭和四二年二月ころ以降に、控訴人が履行を催告すれば、そこで解除権が発生することとなり、解除権を行使することができたことになっていたのである。

しかしながら、控訴人が、別件口頭弁論終結前に進和塗装に対して相当の期間を定めて履行を催告したことが一度もないことは原審各証拠により明らかであり、従って、控訴人は別件口頭弁論終結前に解除権を有していたとはいえないのである。

(なお、別件口頭弁論終結前に控訴人が履行を催告しなかった点に何ら責められるべき点がないことは後述四、のとおりである)

三、一、二の点についての原判決の不当性

(1)  原判決は、この点につき控訴人の本件解除権の行使は、「別件の口頭弁論終結前に既に生じていた本件根抵当権設定登記等の存在を債務不履行該当行為であるとして、その後にこれを原因として本件催告および解除に及んだものであるから、別件判決が確定した本件建物の所有権の帰属に関する判断につき、当該判決の基準時点たるその口頭弁論終結前に生じた解除原因事実を主張してこれを争うこととなり、右確定判決の既判力に牴触するもので許されない」と述べているが、この判示によれば、「口頭弁論終結前に解除権の行使が可能であった」ということの意味を、債務不履行該当行為があれば履行を催告したうえ解除することができるということを前提として、「履行遅滞にあったこと」と同義に解しているとしか考えようがない。

つまり解除権行使の可能性ということを、解除原因事実の存在ということにまで広げて既判力と形成権行使との関係を考えているのである。

(2)  しかしこのように考えることは、まず第一に取消権や相殺権の場合に比して明らかに権衡を失するものである。

つまり取消権や相殺権の場合は、取消権、相殺権が既に発生していて行使できるのに行使しなかった場合の失権効を論ずる(更に相殺権の場合は客観的に相殺適状にあっただけでは足りないとする説が多い)のに対し、解除権の場合は、「自己の行為によって解除権を発生させたうえ」解除権を行使することができたのに、解除権を発生せしめず従って又解除権を行使しなかった場合の失権効を論ずることとなるのである。(なお、催告をしても、必ず解除権が発生するわけのものでもないことに注意を要する。債務者が催告に応じて履行をなすかもしれない、否むしろ履行をなすのが通例だからである。)。

次に第二に、契約の成立自体を争って訴訟となっている場合でも相手方に債務不履行該当行為があれば、口頭弁論終結に至るまでに必ず、契約が成立したことを前提としたうえで履行を催告し、それでも履行しない場合には解除の意思表示をしておかなければならない―そうしなければ履行を催告し、解除することが既判力により遮断されるという極めて不当な結論となるのである。(なお催告―予備的催告にしろ―をすることが、少くとも実際上は不可能であったことは次項において更に述べる通りである)

四、別件口頭弁論終結前に控訴人が解除の意思表示をしなかったことにつき控訴人には何ら責められるべき点はない。

(1)  別件訴訟は控訴人が進和塗装に対して建物収去、土地明渡を求めたものであり控訴人は本件建物の所有権が自己に帰属するものとは考えず、進和塗装に帰属するものと信じていたものであった。

(一) 甲第一号証によれば

① 別件における控訴人の請求原因は、(ⅰ)本件土地は控訴人の所有である。(ⅱ)進和塗装は本件地上に本件建物を所有しかつこれを使用して本件土地を占有している。(ⅲ)よって本件土地所有権に基づき、本件建物を収去して本件土地の明渡しを求めるというものであったこと。

② 本件建物につき既に売買契約が成立し、本件建物の所有権が控訴人に帰属するから「建物収去」の請求は認められないとの抗弁は、進和塗装補助参加人の保証協会から主張されたものであること。

がそれぞれ明らかである。

(二) 更に、別件訴訟における保証協会の「本件建物買取の約定は期限付であり右期限はすでに経過しており、右建物は控訴人の所有するところである」との主張は控訴人の求釈明の結果提出されたものであったし、控訴人は、右主張に対してはその約束は、「三年後に買取る話をしてもよいという程度の単なる口約束で売買予約とはいえない不確定なものであって……」との主張をなしていたのである。しかも、控訴人は、その口約束をしたのは控訴人と訴外竹山との間であったことを前提として、

① 控訴人は進和塗装が右訴外人より本件土地の賃借権を譲り受けるについて承諾をなしていないこと。

② 進和塗装が右賃借権と共に本件建物の所有権を譲り受けたとしても、それを控訴人に主張するためには債権譲渡の通知が必要であるのにそれをなしていないこと。

③ 従って保証協会の「進和塗装は本件建物の売主たる地位を承継した」との主張は理由がなく、控訴人は進和塗装に対し売買代金債務を負担していない(即ち控訴人と進和塗装との間に本件建物売買契約は成立していない)こと。

を主張し、本件建物の所有権はあくまで進和塗装に帰属しているとの主張を維持、強化していたのであった。

従って、別件判決が抗弁に対する認否として「買取代金が時価であったとの点は否認し、その余は認める」と事実摘示している点は、「三年後に買取るという話を訴外竹山との間にしたということについては認める」という意味に解しなければならないのである。何故なら、仮に右事実摘示の意味を「本件建物の所有権が進和塗装に帰属することを認める」という意味と解すれば、それは控訴人の実際の主張と大きくかけ離れることとなるばかりか、建物収去・土地明渡の請求をなしながら自ら自己に建物の所有権が帰属することを認めるならば、いかなる売買契約が成立したかを証拠によって認定する必要もなくなり、直ちに建物明渡・土地明渡の判決をなすことになるのが当然であるところ、別件判決は本件建物売買契約の成立につき、証拠によって停止期限付売買契約であると認定しているからである。

(三) また進和塗装は、昭和四二年五月二三日本件建物につき所有権保存登記をなし、更に同年七月一七日から昭和四三年九月三〇日までの間に保証協会のために根抵当権設定登記等をなしていることは当事者間に争いがない。

このことは何を物語るのであろうか。それはとりもなおさず進和塗装は本件建物の所有権者でなければできない行為をなしていること、更に言えば、進和塗装も保証協会も「三年後の売買契約の成立」などということは一切考えず本件建物の所有権者が進和塗装であると信じていたことを明瞭に物語っているのである。

(四) 右は、更に別件訴訟において保証協会は当初から前記の如き抗弁を主張していたのではなく、当初は、本件土地賃貸借契約が三年間の一時使用であったこと争い、従って本件建物売買契約が三年後に成立したとは主張せず、進和塗装にその所有権があると主張していた事実によっても裏づけられる。

(2)  別件訴訟において売買契約が成立していないと信じ、その主張・立証に努力していた控訴人にとって、履行の催告―解除をなすことは、当然あり得ず、何ら責められるべきではない。

(一) 売買契約が成立していないと信じて建物収去、土地明渡の請求をなした場合であっても、判決によって売買契約が成立していると認定されることがあり得ることは当然であろう。

しかし、それは右の請求が各証拠に照らせてみれば十分な理由を持たなかったことを示すだけのものである。

そして控訴人としては、私法上の権利関係の判定者たる裁判所によって売買契約が成立していると判断された(主文中であっても理由中であっても)ことによって、はじめて売買契約の成立を前提とした次の措置、即ち履行の請求―解除の意思表示が可能となったのである。

(二) 先にも述べた如く、一方で売買契約が成立していないと主張しながら、他方で売買契約の成立を前提とした履行の催告―解除の意思表示をすることは常識的に考えてもありえないし、場合によっては売買契約の成立を自認しているものと受けとられる危険さえ存するのである。更に、もっと根本的に考えてみるならば、一方で売買契約が成立していないと主張し、他方で予備的に催告をしたうえ、履行しなかったとすれば解除の意思表示をするということがそもそも可能であろうか。

建物収去・土地明渡の請求に対して、土地の占有権原の抗弁を主張し、予備的に土地の占有権原が認められないとすれば建物買取の抗弁を主張するという事例はよくみられるところであり、この場合は「予備的抗弁」ということが、ぴったりとあてはまる。(なお、このケースの場合においても、弁論終結後建物買取の請求を主張して請求異議をおこすことは既判力に牴触しないとするのが判例学説が多数である。―札幌高判昭和四〇年二月一九日、判時四〇七号、三七頁、東京高判昭和三八年一一月三〇日下民集一四・一一・二三五三頁等、我妻債権各論中一、四九一頁、畑「建物買取請求権と請求異議訴訟」司研創立一五周年記念論集上巻三四三頁、広瀬・借地借家法一二三頁、七二頁等)

しかし本件のような場合予備的な催告、解除ということは実際上はありえない。

即ち、控訴人が予備的に履行の催告をしたとして、進和塗装がこれを履行してきた場合、控訴人は一体いかなる態度をとればよいのか。

これは予備的な催告―講学上の分類でいえば意思の通知(我妻民法総則二三四頁)―であるからという留保をつけて受領せよというのであろうか。

更に、予備的だからという留保をつけたとしても、相手方が履行(の提供)をなした以上は解除権が発生する筈はないから予備的に解除の意思表示をなすことが出来ないこと明らかであるが、この場合でも、判決において売買契約の成立が認められれば、弁論終結前に解除権の行使が可能であった―という欺瞞的な理由をつけて解除権の行使は既判力に牴触するというのであろうか。

第四、たとえ口頭弁論終結前において解除権の行使が可能であったとしても、それを行使せず口頭弁論終結後解除権の行使をすることは既判力に牴触するものではない。

一、まず最初に、右の主張の正当性を明らかにするため「口頭弁論終結前形成権の行使が可能であったにもかかわらずこれを行使しなかった場合、弁論終結後これを行使することは既判力に牴触するか否か」の問題についての判例学説の流れを検討することとする。

(1)  判例は、従来より形成権を行使したときに請求異議の「原因」が生ずるものとしていた。

(一) とくに法律行為の取消については、大審院は一貫して右の趣旨を明らかにしていた。(大判明治四二年五月二八日民録一五輯五二八頁、同大正一四年三月二〇日民集四巻一四一頁等)

(二) 相殺については、大審院は当初、相殺適状の成立時に既に異議の原因が生じたものとしていた(大判明治三九年一一月二六日民録一二輯一五八二頁、同明治四〇年七月一九日民録一三輯八二七頁)が、やがて判例を変更し、法律行為の取消の場合と同様に相殺の意思表示があってはじめて請求異議の原因が生ずると説くに至った(大判明治四二年四月一一七日民録一五輯三六〇頁、同大正一一年七月一五日新聞二〇三三号二〇頁、同昭和五年一一月五日新聞三二〇四号一六頁)。

(三) 契約の解除についても当然同一に解せらるべき筋合のものであるが、この点についての判例は見当らない。

(四) ところが最近になって二つの注目すべき最高裁判例が出現した。

その一は、原判決も掲げている最判昭和三六年一二月一二日(民集一五巻二七七八頁)の登記請求事件である。

右は次の様に判示した。

「書面によらない贈与を請求原因とする訴訟が係属した場合に、当事者が民法五五〇条によるその取消権を行使することなくして事実審の口頭弁論が終結した結果、右贈与による権利の移転を認める判決があり同判決が確定したときは訴訟法上既判力の効果として最早取消権を行使して贈与による権利の存否を争うことは許されなくなるものと解するを相当とする。」

その二は、最判昭和四〇年四月二日(民集一九巻五三九頁)の相殺に基づく請求異議訴訟である。右は次の様に判示した。

「相殺は、当事者双方の債務が相殺適状に達した時において当然その効力が生ずるものではなくて、その一方が相手方に対し相殺の意思表示をすることによってその効力を生ずるものであるから、当該債務名義たる判決の口頭弁論の終結後に至ってはじめて相殺の意思表示がなされたことにより債務消滅を原因として異議を主張するのは民訴法五四五条二項の適用上許されるとする大審院民事連合部明治四三年一一月二六日判決の判旨は当裁判所もこれを改める必要を認めない。」

(2)  一方学説はどうであったか。

(一) 大審院判例のように、形成権の行使があってはじめて異議の原因が発生するとする見解はきわめて少数であった。(山田強制執行法四一頁、二三〇頁、前野強制執行手続一四二頁等)

(二) とくに法律行為の取消(および解除)については近時の学説はほぼ一致して従来の判例理論に反対し、既判力の標準時以前に取消権の行使が可能であった以上

標準時後の行使の効果の主張は既判力により妨げられると説いている。

(兼子強制執行法九九頁、吉川強制執行法二二四頁、三ヶ月民事訴訟法三二頁、近藤執行関係訴訟法五七頁等)その理由としては①民訴法五四五条は口頭弁論の終結前に提出することができた一切の異議を排斥する趣旨の規定である(雉本民訴法論文集二八二頁)、②取消は訴の目的たる当該請求自体に関する瑕疵の問題であるから請求と取消とは運命を共にする、(加藤強制執行法要論一一九頁)③無効の場合との権衡論から、「元来法がその種の形成権を認めるのは一定の事実に基いて画一的に無効消滅の効果を認めずに、その効果を特定人の意思に係らしめて、より弱い効力を生じさせようとする趣旨なのに対し、前者が既判力により遮断されるのに後者がそうでないとするのは釣合がとれない」(兼子 前掲九九頁)と説明されている。

(三) しかるに右学説は、相殺については趣を異にし、取消におけると同一趣旨を相殺についても認めるのは稀で(雉本前掲、松岡強制執行法要論六四四頁)、多くは反対の結論を導いている。

その理由としては①相殺に利用される双方の債権の成立は全然無関係のもので、相殺権を利用するか否かは本来各債権者の自由なのだから、相殺適状にある場合に相殺権を利用せずに別個に請求できるし、判決確定後の相殺を請求異議の原因とすることを妨げない(加藤前掲一一九頁、近藤前掲六四頁以下、三ヶ月前掲三二頁)とか②相殺の性質上取消権等と異なってその行使できたという状態は、単に客観的に相殺適状にある反対債権を有するだけではなく反対債権の存在を確知していたに拘らず債権者に対してこれを対抗しなかったことを要すると解すべきである(兼子前掲九九頁、小野強制執行法概論も同旨)とかと説明されている。

(3)  なおここで、以上のようなわが国の判例、学説の状況より正確にとらえるためドイツにおけるそれを概観することとする。ドイツにおいても民訴法典制定の当時には既判力の標準時をどこに立てるかについて議論がなされ、結局わが国の民訴法五四五条二項にそのまま受け継がれたような同趣旨の規定(独民訴法七六七条二項)に落ちついたものであるから、いわば母国における解釈がどうなっているかを検討しておくことは、必ずしも無益なことではないと考えられるからである。(なお以下は中野貞一郎、形成権の行使と請求異議の訴、判タ一八二号、二〇頁以下による)

(一) 当初は、弁論終結後になされるものである限り、弁済や和解などと相殺の場合とを区別しておらず、それらが請求異議の原因たりうることに疑いはもたれていなかった。

(二) やがて、ヘルヴィヒなど有力な訴訟法学者が一致して、最終弁論終結までに提出できたあらゆる抗弁事由(異議事由)の提出は既判力により排除されると説き、弁論終結前に行使できた形成権のその後の行使に基づく請求異議は許されないと主張し、ライヒ大審院の判例もこの理論を採用した。

(三) しかし、右の通説的見解に対しては近時次第に異説が抬頭してきている。最初に「取消権・解除権や相殺権をいつから行使できる状態にあったか、ではなくて、いつ行使したか、がやはり基準になるべきだ」と主張したのはバーゲンシュテッハーであり、これを強力に推進したのがレントである。

(四) もっとも現在もなお、かっての通説の立場を堅持する説もあるが、これらも、債務者が弁論終結当時まだ反対債権の存在を確知しなかった場合には、その後の相殺を請求異議の事由となし得るとの例外を認めている(取消や解除等についても同様)点に注意しなければならない。

(五) とくに最近はローゼンベルグが改説したのをはじめ、最近現われてくる概説書、注釈書の中にはますます多くレントらの見解に対する賛成が見られる。

(4)  以上見たように、ドイツにおいてもわが国においても未だ見解は統一されていないのであるが、概していえば、わが国では取消権や解除権と相殺権とを区別し、前者については「行使できた時期」を、後者については「行使した時期」をとらえて、それが既判力の標準時以後であれば請求異議の事由とする立場が多いのに対し、ドイツでは場合を区別せず、一率に形成権が行使された時期をとらえていこうとする傾向にあることが明らかであろう。

控訴人は、以上の検討をふまえた上で、わが国の多数説の立場即ち原審の立場の不当性を以下主張する。

(以下も中野前掲論文による)

二、他の債務消滅原因(弁済、免除等)に基づく請求異議の場合は、実体法上いつ請求権が消滅したか(即ちいつ弁済等の効力が生じたか)が問題となるのに対し、形成権の行使による消滅の場合だけを異別に取り扱う(即ちいつ形成権の行使ができたかを問題とする)以上、それなりの充分な理由づけが必要であること当然であるが、わが国の多数説の前記の説明づけは次にみるように必ずしも充分な説得力を持つものではない。

(1)  まず「既判力制度の趣旨を挙げ、とくに取消原因のような訴の目的たる請求権自体に付着する瑕疵は既判力によって全部洗い去られる」との説明に対して、

これは「既判力は、弁論終結当時に請求権が存在していたことを確定するだけで、将来にわたって取消権の行使等により消滅する可能性がないことまで確定するわけではない」ということを看過したものである。即ち、取消権がある場合に、既判力をもって確定されるのは取消によって消滅する可能性を内包した請求権の存在なのであって、その請求権につき既判力が生じたとて、取消権により取消される可能性が消滅し、強化された請求権になるとは到底考えられないのである。

現に多数説の立場においても既判力による遮断を認めるのは債務者がした取消や解除についてだけであり、債権者がした取消や解除を債務者が請求異議の事由とすることは許しているのである(兼子前掲九九頁等)。

(2)  無効の場合の権衡論による説明に対して

これは無効と取消との差異を与えられる効果の強弱という点で割切って考える点で疑問である。そもそもある法律行為を無効とするか取消しうるものとするかは、立法政策の問題であって(我妻民法総則三八六頁)、必ずしも強い瑕疵のものを無効、弱い瑕疵のものを取消と区別したわけではない。例えば、詐欺強迫による行為が取消原因とされているのは、それが特定人の保護を目的とする以上、その者の意思に結果をかからしめるのを妥当と考えたためであり、必ずしも右も軽い瑕疵とみて保護をうすくしたわけではないのである。

(3)  民訴法五四五条二項の文理による説明に対して

民訴法五四五条二項はたしかに「遅クトモ異議ヲ主張スルコトヲ要スル」口頭弁論の終結後に「某原因」を生じたときに限ると規定されているが、ここに論拠を求めることは決定的ではありえない。何故ならば、弁論終結前に行使されえた形成権につき常に必ずしもその弁論終結前にその行使を債務者に要求しえないことが明らかだからである。現に多数説の立場においても、相殺の場合は、右条文の文理にもかかわらず、弁論終結後の行使を認めているのである。

三、多数説の立場に立つならば、次に述べる点において、不当に債務者の利益を害し、実体法と訴訟法の規制の間にくい違いを生ぜしめるものである。

(1)  多数説の立場に立てば、取消(契約の解除についても以下同じ)によって実体法上の請求権が消滅したことを請求異議の訴で訴訟法(執行法)上反映させることができなくなり、債務者としては、実際上弁論終結と同時に取消権につき失権の効果が生ずることとなり、場合によっては甚だ酷である。

たとえば、自己の責に帰すべき事由によらずして取消権のあることを知らずに弁論が終結してしまった場合(弁論終結後始めて、契約当時欺されていたことを知ったような場合)債務者はもはや強制執行を防ぐことができなくなり、わずかに再審の可能性が残されるのみとなるのはどうみても不当であろう。

詐欺、強迫により他人に意思表示をさせたものは、いち早く確定判決を手に入れる等既判力を伴う債務名義を得れば、自己の請求権に本来付着していた筈の瑕疵を事実上洗い落とせることとなるからである。

「いったん確定判決によって請求権の存在が認められたのに、その後の取消権の行使によって判決が覆えされる」ということは、先ほど述べたように、確定判決により認められたのは取消権により消滅する可能性を内包した請求権の存在であるということからすれば、むしろ当然のことであって、何ら不合理ではなく、むしろ、もともと弱い法的地位が確定判決の取得により強化されるということの方がよほど不合理であるといわなければならない。

(2)  民法は法律行為の取消権につき追認をなしうる時から五年、行為の時から二〇年(一二六条)、売主の担保責任による買主の解除権につき一年(五六四条、五六六条三項)というように若干の形成権につき除斥期間を法定している。これは形成権を生ぜしめる事実を確知しても形成権の行使をするかしないかの自由をその期間に限って許容したものであって、そこには、ひとつの利益衡量がもられていることが明らかである。

ところが、多数説の立場からすれば、債務者が取消権を行使しないままに口頭弁論が終結され、敗訴の確定判決を受けた場合は、その取消権は除斥期間の経過を待たないで弁論終結により、あるいはそれよりも早く弁論進行中のある段階において(民訴法一三九条一項の場合)事実上喪失することとなり、その限りにおいては実体法が除斥期間を法定するにあたってなした利益衡量は無に帰することとなってしまうのである。

(3)  多数説の立場の基礎には弁論終結までに提出できたすべての抗弁事由(異議事由)は、本来その時までに提出すべきだとの考えがあることは明らかであるが、このように取消権や解除権の行使による抗弁事由と他の一般の抗弁事由(弁済、免除等)とを同列において考えることは不合理である。現に多数説の立場においても、相殺権については行使される反対債権は訴求された債権とは別個のものであるという相殺の抗弁の特性を考慮して別異の取扱いを認めているのである。

しかし、相殺につき右のような特性を考慮するというのであれば、取消や解除にあっても、しばしば相手方の権利だけではなしに自己の権利をも変更、消滅させる結果を導く点で、他の一般の権利消滅事由と同一に論じえないということに注目すべきではなかろうか。

相殺のように全く無関係の反対債権ではなく、牽連性を持った反対債権であるという相異があるとしても、、契約の取消、解除は、契約から生じた相手方の債権だけではなく自己が契約によって取得した債権をも消滅させる結果となる点では、特別な配慮が必要であること相殺の場合と同様なのではなかろうか。

さすれば、弁論終結までに取消や解除の抗弁を提出しなかったとしても、直ちにこれを非難して、失権の効果を与えるのはあまりにも酷だといわなければならない。

(4)  なお右(3)の論理を直ちに採用できないとすれば、百歩譲ってなお取消権の場合と解除権の場合との差異に着目する必要があることを付加しておこう。

取消権の場合は、請求権に当初より付着している瑕疵であるから、弁論終結までに行使しなかった場合に失権効を与えるのは債務者が取消権の存在を確知しなかった場合を除いて、それほど酷な結果となることはないともいえるであろう。これは取消権の行使は、いわば防禦的抗弁ともいうべきものだからである。これに対し、解除の場合は、民法は、相手方が履行遅滞にある場合にも、履行の請求プラス損害賠償を求める方法(この場合は自己の反対給付義務も消滅しない)と、催告したうえ、一切の法律関係をなかったことにしてしまう解除の方法(この場合は自己の反対給付義務も消滅する)との二つの方法を選択的に認め、どちらを選ぶかは債務者の意思にかからしめているのである。従って法は債務者をしてどちらの方法がより自分に有利であるかを判断したうえで、いずれかの方法を選ぶことを当然のこととして許容しているのであり、この意味では解除権の行使は取消権の場合と対比して攻撃的抗弁ともいうべきものなのである。

さすれば解除権の場合は取消権の場合に比して一層、債務者が弁論終結前に解除権を行使しなかったことを非難することが酷であることが明らかであろう。

四、以上の学説の検討によれば、多数説のように一律にかつ形式的に取消権、解除権については弁論終結後の行使が既判力により遮断されるとする立場が相当でないことが明らかであろう。

しかして、請求異議の原因がいつ生じたかは、実体法の規律するところに従い、執行力のある請求権がいつ変更、消滅したかによって決すべきであり、その時期が既判力の標準時以後である限り執行債務者の請求異議を許すべきであるとする大審院の判例の立場の正当性を原則的に承認したうえで、債務者の不当な引延ばし等の策動に対しては、信義則、仮の処分(民訴五四七条)等の適用により個々的に是正すれば足りるとする立場を是認すべきであろう。

本件の如きはまさに多数説の立場によることの不合理性を如実に顕出したものであるといわなければならない。

五、既に前述した原判決の掲げる最判昭和三六年一二月一二日は、必ずしも取消権、形成権の場合に一律に適用すべきものではない。

(1)  右判例の判旨は先に述べたとおりであるが、この事案は前訴ではYがXを被告としてXのした建物所有権保存登記の抹消等を請求し、Xの前主AからYが受けた死因贈与が認められてY勝訴の確定判決があったのに対し、その後Xが書面によらない贈与であるとして取消したうえYに対し所有権移転登記手続を請求したというものであった。

(2)  従って、右判例を理解するには次の諸点に注意しなければならない。

① 右事例は「書面によらない贈与の取消」という民法五五〇条の解釈問題(少くとも実質的には)とも関連するものであって、大審院の諸判例の扱った無能力による取消、あるいは親族会の同意の欠缺による取消等とは性質の異なったものであること。

② 仮に右判旨が「既判力の効果として」といい切っている点をとらえて、「本判決は大審院判例の考え方を捨てて学説に従ったものであって、注目すべき判決である」(宮田調査官、最高裁判所判例解説民事編昭和三六年度四三一頁、中川淳民商法雑誌四六巻一〇二四頁)と理解したとしても、これはあくまで取消権の場合についてのみ言い切ったものであること。従って解除権の場合も同様に解すべきかどうかについては別個の検討が必要であること。

③ 右判例が学説に従ったものだとすれば二、三において詳論した批判がそのままあてはまるものであり、この批判を覆えすに足る論理は用意されていないこと。

(3)  更に他方においては前述した最判昭和四〇年四月二日が、相殺の場合は、大審院判例の立場をそっくりそのまま踏襲していることも看過してはならない。

何故ならば、前述のように相殺の場合に、債務者の権利保護を全うすべく実質的な配慮をするのであれば、取消権、解除権の場合にも同様の配慮をすべきは当然であり、さすれば少くとも前記昭和三六年の判例は制限的に理解する、(取消権の場合に限る)あるいはそうでなくとも当該事案においては取消権の行使を許すことは実質的に妥当でない(公平でない)との判断のもとに「既判力に触れて許されない」という論理的説明づけをしたものと理解しなければならないと思料されるのである。

六、以上詳しく学説・判例を検討したわけであるが、この問題の根本は論理的な問題にあるのではなく、むしろ、実質的な公平の見地から弁論終結後の形成権の行使を許すのがよいか悪いかの法律政策的配慮の問題にあり、様々の学説はこれをどう説明するかの点の対立にあると考えて差しつかえないものと思われる。

そこで最後に再度、裁判官に強調し、理解していただきたいのは、「控訴人に解除権の行使を許さないことは控訴人にとってあまりにも不合理かつ酷ではないか」という法律構成以前の価値判断の問題である。

控訴人は別件訴訟において建物収去、土地明渡を請求したが、本件建物につき売買契約が成立したと認定された。そこで控訴人はその判決に従って履行を請求したが、履行しないため止むなく解除をし本訴請求に及んだというのが本件の大まかな流れである。しかるに解除が許されないというのでは控訴人は一体いかなる方途をとればよいのか、一体控訴人のどこが悪かったためにこのような不利益を受けなければならないのか、どうしても納得できない点である。民事紛争の最も正しい解決方法とは即ち、誰が見てもそうすべきだという常識的な判断にのっとるということであり、すべての立法、すべての法解釈はそのことのためにあるのである。形式的な論理のつじつまを合わせることに急なあまり、紛争の最も合理的かつ公平な解決ということを忘れることは裁判において最も用心しなければならない落し穴である。

前記の如く、わが国の学説の多数説は、弁論終結後の取消権、形成権の行使は既判力に牴触するとの立場に立ってはいるが、これを形式的に適用したのでは実質的な公平を維持することができないこと明らかであれば、裁判所は大胆に真実を直視し、き然として多数説に反対する結論を採用すべきである。誰の目にも合理的かつ公平な結論とうつらないということはとりもなおさず、論理の立て方が誤っているか、あるいはその適用の仕方が誤っているものと反省する必要があると信ずるものである。当裁判所においては、き然として原判決の法解釈の誤りを指摘し、形成権の行使と既判力理論についての正しい立場を採用されんことを切に希望するものである。

第五

一、まず第一に、被控訴人は、別件(枚方簡易裁判所昭和四四年(ハ)第一三七号事件)において、既に控訴人は、本件建物の所有権が実質的に控訴人に帰属していたことを意識し、主張していた」旨を主張するが、これは全く、事実に反することを指摘しなければならない。すなわち、被控訴人の言うように控訴人が、本件建物の所有権が自己に帰属していると意識していたのであれば、別件訴訟において「建物収去」を請求する筈はなく、逆に請求の趣旨を変更し、また、停止期限付売買契約の成立について主張・立証した筈である。

しかるに事実は、全くこの逆であって、保証協会の「本件建物買取の約定は期限付であり右期限はすでに経過しており、右建物は控訴人の所有するところである」との主張は控訴人の求釈明の結果提出されたものであったし、控訴人は右主張に対してその約束は「三年後に買取る話をしてもよいという程度の単なる口約束で売買予約とはいえない不確定なものであって……」と主張し、本件建物の所有権が控訴人に帰属していないことを主張・立証しようとしていたことは控訴人が第三の四において述べたとおりである。さすれば『請求の趣旨で「収去」を求め、請求の原因において「停止条件付建物譲受」を主張していたところに矛盾があった』という被控訴人の主張は、控訴人の主張を無理矢理矛盾する様に解釈した結果であるといわざるを得ない。別件判決が、右譲受の特約を抗弁事実として記載したのは当然のことであり、これを非難するかの如き主張をなすのは全く言語道断である。

二、次に、被控訴人は別件判決が「収去」を認めず「明渡」を言渡したのに対し控訴人は控訴せず確定させ……」と主張するが、控訴人がさきに詳論したとおり、本件の流れは別件訴訟においては、「建物明渡」の主文となったため、控訴人はそれを尊重し、それに従って所有権移転登記等の催告をなしたにもかかわらず被控訴人がそれを履行しないため、右売買契約解除―本訴請求となったものなのである。別件判決の認定を不服として控訴するか、それとも右判決を尊重してそれに従うかは当事者の自由であり、控訴人は後者の途を選択したにすぎないのである。

控訴人の別件判決の主文にのっとった履行の催告を無視しておきながら、別件判決に控訴をしなかったことを非難するのは的はずれもはなはだしいものと言わねばならない。

三、また、被控訴人は、「右のような場合……」と述べ、その「根拠」として最高裁の二つの判例を引用しているが、これは本件事案と右判例の事案との比較検討を何ら経ない極めて乱暴な引用である。

すなわち、前者(最判昭和三六年一二月一二日)については、控訴人が第四の五以下において既に十分検討したとおり、本件にそのまま適用できる判例とはいえず、また後者(最判昭和四九年四月二六日)については、一般的な「訴訟物のとらえ方の広狭」について、注目すべき判例であるとしても、本件の中心的な論点である「形成権(解除権)の行使と既判力の時間的問題」についての判例ではなく、従って、本件においては先例的価値は存しないものである。

要するに被控訴人の主張は、別件訴訟からの推移につき、独断的に(何らの証拠もなく)「控訴人は本件建物が自己の所有であることを意識し、主張していた」と構成したうえ、「右のような場合」は、「判決主文に掲げられたと同様に、あるいは掲げられたと解して民訴法第一九九条第一項により既判力に準じた効力がある……」と右後者の判例についてのコメント、理由中の文言(判時七四五号五二頁参照)をつなぎあわせているにすぎないのであって、本件訴訟の真の争点、法律解釈のうえでの真の問題点すら十分に把握されていないといわなければならず、到底控訴人が詳細に検討した結論に対する反論とはなっていないのである。

第六

一、民法三七八条は「抵当不動産につき所有権を取得した者はてき除をなしうる」旨を定めているが、このことは、売買契約が成立した後、移転登記未了の間に売主が売買物件に抵当権を設定した場合、買主は必ずてき除しなければならないという趣旨ではない。すなわち、右の場合買主は、①民法三七八条により抵当権者に対しててき除をし、かつ民法五七七条により右手続が終わるまで売主に対して代金の支払を拒むという方法と、②売主に対して売買契約後売主が設定した抵当権を抹消して買主への所有権移転登記をもとめ、右が履行されないときは、売買契約を解除するという方法の二つを自由に選択できるのである。

従って本件の場合は、控訴人は昭和四七年五月一日言渡された別件判決により昭和四二年二月末において代金九〇万円で本件建物の売買契約が成立したと認定されたため、昭和四七年一〇月六日付、同月七日到達の内容証明郵便で進和塗装に対し、催告および解除をなしたというにすぎないのである。

ちなみに、「てき除をなしうるためには、本登記を具備していなければならない」とするのが判例通説であり、さすれば、右催告、解除の時点でてき除をしようと思えばそのためにも売主たる(売主と認定された)進和塗装に対し所有権移転登記を求めることは不可欠だった筈である。

従って、控訴人の催告、解除には何ら問題点はないと言わなければならない。

二、本件解除の効力について

被控訴人らは、第二の六項において、本件催告に示された五日以内という期間が「相当の期間」でないとして右解除の効力を争っているが、これは「期間の不相当、または期間の指定なき催告も有効であり、催告後相当の期間の経過によって解除権が発生する」という今日の確立した判例学説を無視した言いがかり的な「ケチ」論である。

本件催告によって控訴人は期限付解除の意思表示をなしているものであり、仮に右催告期間が相当でなかったとしても、相当期間の経過により解除の効力は発生していること当然である。

(被控訴人ら)

第一

一、別件確定判決について

控訴人は結局別件判決の結果を不満として実質的公平を主張するが、そもそも別件において請求の趣旨で「収去」を求め、請求の原因において「停止条件付建物譲受」を主張していたところに矛盾があったのである。

別件判決事実記載は右「譲受の特約」を抗弁事実として記載しているが、実際はすでに請求原因事実として訴状に記載されていたものである。

従って、控訴人は訴状提出時すでに本件建物が登記簿上はともかく、実質的に控訴人に帰属していたことを意識し、主張していたといえる。

控訴人は別件判決が本件建物の控訴人所有を認容して、「収去」を認めず、「明渡」を言渡したのに対し、控訴せず確定させ、転付命令を受けて初めて前記特約を不満として、右特約の解除を主張してきたものである。

以上のとおり本件特約は別件訴訟の当初から意識されかつ、その効力の有無を争う機会は十分にあったといえる。

二、右のような場合、判決主文に掲げられたと同様に、あるいは掲げられたと解して、民訴法第壱九九条第壱項により、既判力に準じた効力があると考えるべきであり、また民訴法第五四五条第弐項の法意である権利関係の安定、訴訟経済及び訴訟上の信義則等に鑑みると確定判決の効力をその基礎となる口頭弁論において主張することのできる事由に基づいて動かすことはできないと考えるべきである。

(最判昭和参六年壱弐月壱弐日民集壱五巻弐七七八頁、最判昭和四九年四月弐六日判例時報七四五号参照)

第二

一、別件確定判決の訴訟物について

枚方簡裁で控訴人が申し立てたのは建物収去、土地明渡であり、その請求原因は①物権的請求権に基づく妨害排除と②三年間の期間終了に基づく返還請求、さらに③売買契約に基づく建物引渡請求の三種であったと理解しなければならない。まず、右①について被控訴人は建物収去請求を土地明渡請求とは独立した一個の訴訟物と考える。

けだし、土地明渡は所有物返還請求権であり、建物収去は妨害排除請求権であること、物権的請求権は侵害の態様に応じて請求権の内容も異なること、例えば建物収去請求のみを訴求しても訴訟法上不適法はなく、執行法上も支障がないと考えられるからである。

次に②について控訴人は申し立てていないと考えているようだが、訴状に記載していることから当初から予備的に請求していると理解する。

判決書によると抗弁事実となって、これを認める形式になっているが、実際の過程は控訴人が訴状に記載している賃貸借契約及びその期間を認めたところ抗弁として構成されたのである。枚方簡裁は、所有権に基づく返還請求および収去請求を排除して、期間終了に基づく原状回復請求を認容したものである。

さらに③について控訴人は売買契約に基づく引渡請求を申し立てていないと考えているようだが、訴状に売買契約を記載し、これを被控訴人が認めたことにより、主文のとおり引渡請求を認容したわけであり、これは、収去明渡請求の中には建物の引渡を求める申立を包含する趣旨と解すべきであるから一部認容という結果になったに過ぎない。

結局枚方簡裁は、①を排斥し、②で土地明渡を認容し、③で建物引渡を認容したと理解できる。従って訴訟物は①、②、③を併合したものといえる。

二、一部棄却か

前記のように分析すると枚方簡裁が実質的に一部認容し、一部棄却したことは明白である。

最高裁は民訴法一八六条に関する判断に際し、「家屋収去土地明渡請求に対し、家屋買取請求権の行使があった場合、右明渡請求は家屋の引渡を求める申立を包含する趣旨と解すべきである。」(昭和三三年六月六日第二小法廷判決)と判示し、これは、引渡請求は収去請求に包含され、その実質的一部と考えられることから引渡の限度で一部認容、一部棄却の結果となる。

従って、本件訴は一部棄却された請求を再訴していることになる。

三、本件訴訟は禁反言法理違反

参加的効力は訴訟当事者間にも類推すべき場合が生じる。(兼子体係四四九頁)例えば売主甲が買主乙に対して売買代金の請求をしたのに対し、乙は売買の無効を主張して勝訴した後に、甲が別訴で乙にすでに引渡した目的物の返還を請求した場合には、乙は前言をひるがえして売買は有効であったと主張できるか。

判決の既判力は売買の有効無効には及ばないから、それによって禁じられないが、このように同一の事実の存否や行為の効力が何れに決まるかによって、互に表裏する関係に立つ請求については当事者は前訴の勝訴判決のその点の判断を後訴ででは争えないという公平の要求に基く禁反言を受けると解すべきである。

本件で控訴人は売買契約の存在と効力に基づく引渡請求をして枚方簡裁がその主張を判断したうえ勝訴判決を得たのに後訴でその解除による無効を主張して争うのは禁反言の法理に反すると考えられる。

四、口頭弁論終結後の解除権行使と既判力、最高裁は昭和三六年一二月一二日取消権につき、既判力効としてその行使を認めず、同四〇年四月二日相殺権につき、その行使を認めるがまことに至当な判決といえる。

現在の大多数の学説は右判旨に賛同している。

その根拠として、次のようなものがある。

(1)  民訴法五四五条は口頭弁論終結前に提出することのできた一切の異議を排斥する趣旨の規定である。(雉本民訴法論文集二八二頁)

(2)  取消は訴の目的たる当該請求自体に関する瑕疵の問題であるとして請求と取消との密接な関連性(運命を共にする)を指摘するもの(加藤強制執行法要論一一九頁)

(3)  無効の場合との権衡論から「元来法がその種の形成権を認めるのは一定の事実に基づいて画一的に無効消滅の効果を認めずその効果を特定人の意思に係らしめてより弱い効力を生じさせようとする趣旨なのに対し、前者が既判力によって遮断されるのに、後者がそうでないとするのは釣合がとれない。」(兼子、強制執行法九九頁)。

(4)  たしかに実体法上は取消の意思表示があるまでは請求権が消滅しないし、また、取消の意思表示をするかどうかも取消権者の自由であるけれども、争いの場面において防禦方法として主張するときには訴訟法的評価によって実体法的権能が制約をうけることもありうると考えねばならない。(白川和雄、別冊ジュリストNo.36一七九頁)

(5)  相殺される双方の債権はもともと全然無関係のもので相殺権を利用するか否かは債権者の自由であり、相殺しないで別個に請求することもできるのであるから(加藤要論一一九頁、菊井民訴(二)一〇三頁、近藤執行関係訴訟六四頁、三ヶ月民訴法三二頁)

ところで解除権についても一般には取消権と同様の取扱をしており(兼子前同、三ヶ月前同、反対近藤前同)それは相殺権のように全く無関係のものではなく、請求権自体の存否に密接な関連性を有するからと考えられる。

五、解除権行使の可能性の有無

控訴人は催告をしていなかったから未だ解除事由は発生していなかったと主張する。しかし控訴人は本件売買契約の事実(昭和三九年二月に三年後買取る旨の約定)を昭和四四年六月、訴提起する際に提出した訴状に記載していたものであり、同契約が成立し、その効力がすでに発生している旨を当初から主張していたことになる。

同訴状中には本件建物が登記簿上被告会社に帰属していることを主張し、甲号証として本件建物登記簿謄本を添付していた。

同謄本には当時すでに二つの所有権移転請求権仮登記と、二つの根抵当権設定登記、停止条件付賃借権設定登記の記載があった。

昭和四七年二月別件終結時まで右の状態が続き、甲第一号証の判決確定後、被控訴人は建物売買代金の差押転付命令を得たところ(六月一三日付)、控訴人は右売買契約を解除(一〇月六日付)した次第である。

右解除は五日以内に右各登記を抹消して所有権移転登記手続をするよう催告し右期間に履行しないことを停止条件とする売買契約解除の意思表示であった。

以上の事実関係からいうと、たしかに解除には催告を要件とするとしても、右のような解除権の行使ができなかったといえるであろうか。

催告していなかったというだけで解除事由は存在していなかったといえるだろうか。

実際には控訴人自身、催告と同時に停止条件付解除をしているのであって催告の有無によって解除事由の存否を決めるのは木を見て森を見ない感がする。

相手方の所在不明や代金額不明(時価と定まっていたもので未設定ではない)か解除権行使の支障になるものでないことは明白である。

六、本件解除の効力

債権者は催告にあたって、「相当の期間」を示さなければならない。

相当な期間は、債務者が履行の準備をし、かつ、これを履行するに必要な期間であって債務の内容その他客観的の事情によって定まる。

本件催告は前述のとおり送達後五日以内に本件根抵当権等五つの登記を全て抹消し所有権移転登記手続をせよというもので債務者に不可能事を強いて、それができなければ解除するとするもので債務者にとって不能の事である。

従って履行に必要な期間を経過しないままなされた解除の意思表示であるから無効である。

第三、証拠《省略》

理由

第一、控訴人の被控訴人会社に対する請求について

一、本件建物収去・本件土地明渡の請求

(一)  控訴人は本訴において、被控訴人会社に対し、本件土地所有権に基づいて、本件建物収去・本件土地明渡を求めるものであることは、本訴の請求の趣旨及び原因に徴し明白であるところ、これよりさき控訴人が被控訴人会社に対し、既に本訴と同様本件土地所有権に基づいて、本件建物収去・本件土地明渡の請求訴訟を枚方簡易裁判所に提起し(同簡易裁判所昭和四四年(ハ)第一三七号事件。以下前訴という)、同簡易裁判所は昭和四七年四月一七日に終結した口頭弁論に基づいて、同年五月一日右前訴につき判決を言渡し、同判決は確定するに至ったこと(以下前訴の確定判決と称す)は、控訴人が本訴の請求原因において自陳するところである。

而して成立の真正につき争いのない甲第一号証によると、前訴の確定判決はその理由中で、控訴人が昭和三九年二月頃訴外竹山順道に対し、控訴人所有の本件土地を期間三年とする一時使用の目的で賃貸し、且つ期間満了による本件土地の賃貸借終了を停止条件として控訴人が右訴外人所有の本件土地上に存する本件建物を買取る契約を右訴外人との間で締結した事実、その後昭和三九年一〇月一五日頃、被控訴人会社が右竹山から本件建物の所有権並びに前記停止条件附建物買取の特約の付着した本件土地賃借権の譲渡を受け、控訴人がこれを黙示的に承諾していた事実、本件土地賃貸借の期間満了による終了の事実を認定のうえ、被控訴人会社(補助参加人たる被控訴人保証協会。以下同じ)主張の本件土地賃貸借終了に伴う本件建物買取契約成立の抗弁を認容し「……原告(控訴人の意。以下同じ)は、被告会社(被控訴人会社の意。以下同じ)から、本件建物所有権を取得したことになる。従って被告会社の原告に対する本件建物収去義務は消滅しているが、被告会社は本件建物を使用して本件土地を占有している以上、被告会社は原告に対し、本件建物を引渡し、本件土地を明渡すべき義務を負担していることになる。」旨(甲第一号証六枚目表五行目下段から同一〇行目上段まで)並びに「……原告の本訴請求は、本件建物の引渡を求める請求を包含するものと解することができる……」旨(甲第一号証六枚目裏八行目下段から同一〇行目上段まで)を判示し、主文第一項において「被告会社は原告に対し別紙第二目録記載の建物(本件建物)を引渡し、別紙第一目録記載の土地(本件土地)を明渡せ。」と命じていることが認められる。

(二)  以上の事実に従えば、前訴の確定判決は控訴人の本件土地所有権に基づく本件土地明渡の請求を認容していることは明白である。してみると控訴人の本訴における本件土地明渡の請求部分は、既に前訴確定判決によって認容されているにも拘らず、重ねて同一事項につき訴を提起しているものというべく、従って右再訴を必要とする特段の事情も認められない本件に在っては、控訴人の本件土地明渡の請求部分は訴の利益を欠き、不適法として却下を免れ得ないものと解する。

(三)  更にまた上記事実に従えば、前訴の確定判決は、控訴人の本件建物売買契約に基づく本件建物引渡(明渡)請求権を認容したほか本件土地所有権に基づく本件建物収去の請求(妨害排除請求)についても、これを棄却する旨判断を示しているものと解するのが相当である。尤も前顕甲第一号証によれば、前訴の確定判決はその主文において「原告の本件建物収去の請求を棄却する」或いは「原告のその余の(又は主位的)請求を棄却する」等の文言の記載を欠いていることが認められ、本来からいえば、前訴の確定判決としては、当然これに類する文言を主文中に掲記すべきであったと解せられるが、然しだからと言って、右文言の欠缺から直ちに、前訴の確定判決が控訴人の本件建物収去請求について、何らの判断を示していないとか判断を遺脱したと即断するのは当を得ていないといわねばならない。判決が当事者の請求について判断をしたか否かは、単に主文の形式的文言のみによって決すべきではなく、主文、事実摘示、理由の全文の観察によって判定しなければならないと解すべきである。かような観点に立って前顕甲第一号証全文を判読すれば前訴の確定判決は、前述の如く理由中において、控訴人の本件建物収去請求につき、被控訴人会社の本件建物買取契約の抗弁を容れて、右収去請求権が消滅するに至った旨及び控訴人の本件建物収去・本件土地明渡請求には、本件建物引渡(明渡)の請求を包含する趣旨と解して本件建物引渡、本件土地明渡請求を認容する旨明確に判示しているのであって、唯右理由中の判断を主文に表示するに当り、前訴の確定判決は何らかの事情によって、本件建物引渡、本件土地明渡を命じる文言のみを掲記し、本件建物収去請求を棄却する旨の文言を脱落したものであることが看取される。この意味において前訴の確定判決を客観的に評価すれば、同判決は控訴人の本件建物収去請求について意識的に判断をしなかった又は無意的にその判断を遺脱したもの、即ち民訴法一八三条の一部判決又は同法一九五条の請求の一部についての裁判の脱漏(これらの場合、控訴人の本件建物収去請求は未だ枚方簡易裁判所に係属していることとなり、控訴人の本訴における本件建物収去請求は民訴法二三一条の二重起訴禁止に牴触し、不適法として却下すべきこととなる)に当るものではなく、理由中で示した本件建物引渡・本件土地明渡請求の認容、本件建物収去請求の棄却の判断を主文に表示する際にその表現の文言を誤まったものとして、民訴法一九四条の明白な誤謬に該当し、更正決定によって右の誤謬を訂正すれば足りるものと解すべきである。

また前訴の確定判決が理由中で明示した控訴人の本件建物収去請求を理由なしとする判断は、正に訴訟物そのものについての判断であり、単なる前提事項たる権利・法律関係、或は攻撃防禦方法についての理由中の判断に止まるものではない。

以上の点を総合して勘案すると、前訴の確定判決が示した控訴人の本件建物収去請求に対する棄却の判断は、その主文につき更正決定を経ていない現段階においても、民訴法一九九条に所謂主文に包含される判断として既判力を生じているものといわなければならない。してみると控訴人の本訴における請求中本件建物収去請求の部分は、特段の事情の存しない限り、前訴の確定判決の既判力(本件建物明渡請求認容、本件建物収去請求棄却)に牴触するものとして、請求棄却を免れ得ない。

ところで控訴人はこの点につき、控訴人の本訴における本件土地所有権に基づく本件建物収去請求権は、仮にこれを排斥した前訴の確定判決に既判力を生じるとしても、その標準時後に新たに発生した事由に基づいて取得したものであるから、前訴の確定判決の既判力に牴触するものではない趣旨の主張をする。即ち控訴人の本訴請求原因に従えば、控訴人は被控訴人会社が本件土地賃貸借終了、本件建物売買契約の効力発生後である昭和四二年五月二三日に本件建物を被控訴人会社名義に保存登記したうえ、原判決別紙登記目録記載のとおり、昭和四二年七月一七日から昭和四三年九月三〇日までに、自己の債務の担保として第三者に対し所有権移転請求権仮登記、根抵当権設定登記、停止条件付賃借権設定仮登記を了した事実を捉え、被控訴人会社に対し、前訴の口頭弁論終結時後の昭和四七年一〇月六日、翌七日到達の書面を以て五日以内に右根抵当権等の設定登記を抹消して、控訴人に完全な所有権移転登記をなすべき旨の催告並びに停止条件付契約解除の通知をなしたが、被控訴人の右催告期限までに右義務の履行をしなかったので、昭和四七年一〇月一二日の経過と共に本件建物の売買契約は解除となり、これによって本件建物の所有権が再び被控訴人会社に復帰し、控訴人は新たに本件土地所有権に基づく妨害排除請求権としての本件建物収去請求権を取得するに至った旨の主張をする。

然し右主張によれば控訴人は、前訴の確定判決の既判力の標準時前に存した事由に基づいて、既判力標準時後に解除権の行使を主張するものである。一般に確定判決の既判力の標準時を形成権の行使との関係につき、解釈上争いの存するところであるが、すべての形成権について一律には論じ難く、形成権の種別に応じて異なった解釈が成立つものと言うべく、この点に関し、最高裁の判決は、一方において書面によらない贈与の取消につき、書面によらない贈与による権利の移転を認める判決が確定した後は、既判力の効果として、民法五五〇条による取消権を行使して、右贈与による権利の存否を争うことは許されないとし乍ら(昭和三六年一二月三日第三小法廷判決・集一五巻一一号二七七八頁)、他方相殺権の行使につき、債務名義たる判決の基礎となる口頭弁論の終結前に相殺適状にあったとしても、右弁論終結後になされた相殺の意思表示により債務が消滅した場合は、請求異議の原因となり得る旨判示する(昭和四〇年四月二日第二小法廷判決・集一九巻三号五三九頁)。このような結果の相異は、相殺の場合、訴訟物たる権利の請求原因自体に関する瑕疵(取消権)とは異なるものであり、自己の債権を消滅に帰せしめる不利益を甘受する効果を伴うものであって、これを行使するか否かは、債務者の自由に委ねられ、当然なすべき防禦方法とはいえない点において、取消権等の形成権に比べ、特殊性が認められなければならないことによるものと解される。本件における契約解除権は、請求原因じたいに存する瑕疵ではないが、訴訟物たる控訴人の前訴における本件建物収去請求権の消滅事由に付着する瑕疵として、当然前訴においてなすべき攻撃防禦方法の一つというべく、この意味において、これを前述の如き特殊性を有する相殺権と同列に置くのは相当でなく、寧ろ取消権と同じ取扱いをするのが相当であると解する。

尤も右に関連して控訴人は、本件において解除事由たる被控訴人会社の債務不履行の事実は、前訴の口頭弁論終結時前には未だ存在しておらず、前訴の確定判決後における控訴人の前記履行の催告、催告期間内における被控訴人会社の不履行によって、初めて被控訴人会社の債務不履行の事由が生じ、控訴人の契約解除権が発生したかの如く主張する。然し控訴人の前記主張事実によれば、停止条件成就によって本件建物の売買契約が効力を発生した後に、売主たる被控訴人会社が第三者のために前述の根抵当権等の設定登記を了したというのである。言換えると右事実は更に建物につき売買契約を締結した売主が右売買契約成立後買主の了承なく売主の債務の担保として第三者に根抵当権設定登記等をしたことにほかならず、これは正に買主に対する売主の著しい背信行為以外の何ものでもなく、謂わば契約成立後の事情変更として、買主は即時無催告の解除権を行使し得る場合に該るものといわなければならない。してみると、控訴人の右主張じたいからして、控訴人は前訴の口頭弁論終結前に既に解除権を有し、前訴において或いは遅くとも前訴の判決に対する控訴の提起によって事実審たる控訴審の口頭弁論終結前までにこれを行使することが法律上可能な状態に在ったものというべく、これを前訴の確定判決を俟ってその後に初めて解除権が発生したとする控訴人の主張は当を得ない。

控訴人はこの点につき更に、本件における特殊性を強調し、本件建物買取の特約は、前訴の確定判決が認定したように本件土地の賃貸借終了を停止条件とし、右賃貸借終了によって当然に本件建物の売買契約が効力を発生するという明確なものとは、当事者双方は意識していなかった、それ故にこそ、控訴人も被控訴人会社も本件建物の売買契約が効力発生したとされる時点後においても、依然被控訴人会社の所有建物であるという認識をしていたのであり、被控訴人会社は右認識の下に本件建物について前述の根抵当権等の設定登記を付したのであって、謂わば被控訴人会社の補助参加人であった被控訴人保証協会の右特約の抗弁とこれを認容した前訴の確定判決によって、本件建物の売買契約を擬制されたかの如き主張をする。然し控訴人の右主張を貫くと、被控訴人会社には本件根抵当権等の設定登記についてその責に帰すべき事由は全くなく、謂わば前訴の確定判決によって、本件は恰かも既に抵当権の設定してある借地人所有の建物につきその後に借地法上の買取請求権が行使された場合と同一の法律関係が創設されたこととなり、この場合は専ら民法五七七条によってその法律関係を処理すべきこととなり(最高裁第三小法廷昭和三九年二月四日判決・集一八巻二号二三三頁参照)、借地人の債務不履行を理由とする売買契約の解除を論じる余地は無く、この意味において控訴人の主張はそれじたい失当と言わざるを得ない。

以上説示のとおりであって、これと法律的見解を異にする控訴人の主張は採用し得ず、結局のところ、控訴人の本件建物収去請求については、これを棄却した前訴の確定判決の既判力に拘束され、請求棄却すべきこととなる。

二、本件土地占有に基づく賃料相当額の給付請求

前顕甲第一号証と弁論の全趣旨によれば、被控訴人会社は本件建物についての売買契約効力発生後の昭和四二年三月一日以降本件建物を占有して本件土地を占有している関係に在ることが認められるので、控訴人に対し本件土地明渡済みに至るまで、敷地占有に基づく不当利得としてその賃料相当額を返還する義務があるものというべく(最高裁第三小法廷昭和三五年九月二〇日判決・集一四巻一一号二二二七頁参照)、右甲第一号証によれば本件土地賃貸借終了時点の昭和四二年二月当時本件土地の賃料は月額六〇〇〇円であったことが認められるので、他に特段の反証のない本件にあっては、昭和四二年三月一日以降の右賃料相当の不当利得額もこれと同額と認めるのが相当である。

よって控訴人の被控訴人会社に対する昭和四二年三月一日以降本件土地明渡済に至る迄一ヵ月金六〇〇〇円の割合による金員給付請求(控訴人はこれを賃料相当損害金の請求と構成するが、右請求中には不当利得返還請求を包含する趣旨と解する)はすべて理由があるので、これを認容すべきである。

第二、被控訴人保証協会の控訴人に対する請求について

一、被控訴人保証協会が、本件建物について原判決別紙登記目録(2)記載の根抵当権設定登記を有する抵当権者であること、被控訴人会社が控訴人に対して本件建物売買代金九〇万円の債権を有していたこと、被控訴人保証協会が右根抵当権に基づき、右売買代金債権について、昭和四七年六月一三日大阪地方裁判所同年(ル)第一、五八五号・同年(ヲ)第一、六三一号債権差押並びに転付命令を得、右各命令が昭和四七年六月二三日控訴人に送達されたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば被控訴人保証協会が被控訴人会社に対し金二五四万四、〇一四円の立替払による求償権債権及びこれに対する昭和四四年三月二九日以降日歩五銭の割合による約定遅延損害金債権を有していたことが認められる。

してみると他に特段の事情の認められない限り、控訴人に対し、右売買代金債権九〇万円とこれに対する訴状送達の翌日たる昭和四七年一一月八日以降右完済に至るまで年六分の割合による遅延損害金を被控訴人保証協会に支払うべき義務を認めた原判決は正当というべきである。

二、控訴人はさきに述べた被控訴人会社に対する本件建物売買契約の解除の主張を以て、被控訴人保証協会に対する右売買代金等の支払請求に対する抗弁として主張する。

しかしながら、控訴人が被控訴人会社に対して前示の解除原因に基づいて売買契約解除の意思表示をしても、前訴の判決主文をもって命ぜられた被控訴人会社の控訴人に対する本件家屋からの退去義務が消滅することなく存続し、同判決で排斥された控訴人の被控訴人会社に対する本件家屋収去請求権が復活しないと言う前訴確定判決の既判力の効果は、右解除原因をもってする契約解除によっては、控訴人のためにもまた被控訴人会社のためにも、本件家屋所有関係を右売買前の原状に回復することが事実上不可能であること、すなわち、家屋所有権の移転に関しては契約解除の効果を生じないことを意味する。しかるに、売買とは対価を支払って権利の譲渡を受けることを言うのであって、その本来の性質上当然に、売買代金の支払義務の存否は売買による目的権利の移転の成否と常に不可分的に一致し、両者別途に出ずることは許されないから、本件の場合、前示のように控訴人主張の解除原因による契約解除をもっては本件家屋の所有関係を売買前の原状に回復することが不可能である以上、右解除原因による解除を原因とすることによっては、控訴人は被控訴人会社に対する右売買代金の支払義務を免れることができない道理であり、したがってまた、転付命令によって被控訴人会社から右代金債権の転付を受けた被控訴人保証協会に対する関係においても、同様に、右被転付債権の支払いを免れることができない筋合である。よって、控訴人主張の解除原因による売買契約の解除を理由として被控訴人保証協会に対する右被転付債権の支払義務を否定する控訴人の抗弁は、右解除の効果の成否について判断するまでもなく、失当であること明らかである。

してみると控訴人の被控訴人保証協会に対する本件控訴は理由がない。

第三、結論

よって、原判決中、控訴人の被控訴人会社に対する請求に関する部分を変更して、控訴人の本件土地明渡請求について訴を却下し、本件建物収去請求を棄却し、本件土地占有に基く不当利得返還請求を認容し、控訴人の被控訴人保証協会に対する控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき控訴人と被控訴人会社との間で民訴法九六条、九二条、控訴人と被控訴人保証協会との間で同法九五条、八九条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁長判裁判官 長瀬清澄 裁判官 岡部重信 藤浦照生)

<以下省略>

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